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節税のための養子縁組について
1 養子縁組の要件について
養子とは親子関係を出生という血のつながりではなく、当事者の意思により生じさせる制度を言います。養子が成立するためには、形式的要件としては届出が必要ですが、実質的要件として縁組をする意思が必要となります(民法802条)。そして、養子縁組により親子関係が成立すると、養親が亡くなった場合、当然のことですが養子も相続人となります。
2 養子がいる場合の相続税の基礎控除額について
相続が発生した場合、遺産が多いと相続税を納めなければなりませんが、相続税の計算に当たり基礎控除が認められており、現行法では、3000万円に加えて600万円に相続人の数を乗じた合計金額の控除が認められております(相続税法15条1項)。例えば、相続人が3名の場合、基礎控除額は4800万円(=3000万円+600万円×3人)となります。
そうすると、遺産の多い人は、生前に自分の孫などを養子とすれば基礎控除額が増えることになりますので、節税のため養子縁組をして養子を増やそうとする人も出てくるかもしれません。しかしながら、この点については、相続税法上、被相続人に実子がいる場合は、相続税の計算上、相続人として数えられる養子は1人であり、被相続人に実子がいない場合には相続人として数えられる養子は2人となっております(相続税法15条2項)。つまり、相続税法上は、無制限に養子縁組をして養子を増やしても、基礎控除額として算入される養子を制限しております。
3 節税のための養子縁組は認められるのかどうかについて
では、そもそも節税のために養子縁組をした場合、果たして当事者間に縁組意思が認められるのでしょうか。
この点について、判例(最高裁平成29年1月31日・民集第71巻1号48頁)は「相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」と認定しております。つまり、節税目的があったとしても、養親子関係を生じさせる意思が併存している場合は養子縁組を行う意思はあるとしました。当然のことながら、単に節税のためだけに養子縁組を仮装した場合は養子縁組の意思は否定されることになります。
もっとも、注意すべきことは、節税目的のための養子縁組につき縁組意思が否定されなかったとしても、実際に基礎控除額が増えるかどうかは相続税法の規定によることになります。つまり、相続税を不当に減少させる場合には、養子を基礎控除額の算定の相続人入れることができなくなりますので(相続税法63条)、専ら節税目的のために養子縁組を行うことは止めた方が良いと言えます。
相続のことでお悩みや疑問がある場合は、初回相談は無料とさせていただいておりますので、アーツ綜合法律事務所までご相談下さい。
相続放棄と空家の管理責任について
1相続放棄者の義務
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内であれば相続放棄をすることができます(民法915条1項・相続放棄をしたい方へ)。相続を放棄すれば初めから相続人とならなったものとみなされます(民法939条)。相続放棄が実際になされるのは、遺産に借金が多い場合、不動産などの資産があっても価値がない場合、相続争いに巻き込まれたくない場合などです。
ただ、相続放棄をしても遺産に不動産、預金通帳や動産がある場合、「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけると同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」(民法940条1項)と規定されており、放棄した相続人には管理責任が課されております。通常であれば、第1順位の相続人である子が放棄した場合、その子が第2順位の両親や第3順位の兄弟姉妹の相続人に遺産を引き渡すまで管理責任が継続することになります。
では、第1順位である子の他に第2順位や第3順位の相続人がいない場合に、第1順位の子が相続放棄した場合、その子は遺産について管理責任を負担し続ける必要があるのでしょうか。
このような場合、最後の相続放棄者である子は遺産の管理責任を負い続ける必要があります。遺産の管理責任を免れるためには、相続放棄者が利害関係人として家庭裁判所へ相続財産管理人の選任の申立てる必要があります(民法952条)。もっとも、相続財産管理人の選任申立にあたっては、少なくない額の予納金を納めなければならず、この点が、相続財産管理人の選任を申し立てることを躊躇する原因となっています。
2相続放棄した遺産が空家である場合の問題
(1) 近隣住民等に対して生じる責任
遺産のうちに空家がある場合、前述しましたように相続放棄した者が最終放棄者である場合、遺産の管理責 任が継続することになります。このような状況において空家で火事が生じ近隣の建物に被害を被らせた場合や空家の瓦が落ちて近隣の建物に被害を与えた場合などは、相続放棄者が管理責任に基づく損害賠償責任を問われる可能性があります。相続を放棄したからという理由で、責任を免れることはできないといわなければなりません。
相続放棄者が管理責任を免れるには、前述しましたように相続財産管理人を選任して、空家を除却したり、売却するなどして処分してもらう必要があります。
(2) 行政に対して生じる責任
平成27年に空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空家法」といいます。)が制定され、行政も増え続ける空家対策に乗り出しております。
空家法で規定された施策のポイントは、行政において特定空家を認定し、特定空家の所有者や管理者に対し、除却、修繕などの周辺環境の保全を図るために必要な措置を助言、指導、勧告、命令することができます。
特定空家とは放置すれば倒壊の危険がある状態や衛生上有害となるおそれのある状態など、周辺の生活環境の保全を図るため放置することが不適切である状態の空家のことをいいます(空家法2条2項)。
所有者が行政の命令措置に従わなかった場合、行政が行政代執行法により除却などを行い、それに要した費用について所有者に対して納付命令を行います。
では、最後の相続放棄者は、倒壊等の危険がある空家に対して、行政から助言、指導、勧告、命令を受ける対象となるのでしょうか。つまり、放棄者自らの費用で除却する必要があるのでしょうか。最後の放棄者が放棄後も管理責任を負うとされていることから問題となります。
この点、管理責任を負う最後の放棄者についても空家法3条の適切な管理を行う努力義務を負いますが、前述した空家法14条の命令を受ける対象とはなりません。つまり、最後の相続放棄者は放棄した空家につき倒壊の危険があっても、行政の命令を受ける立場にはなく(但し、行政から助言、指導、勧告を受ける名宛人とはなります。)、最後の放棄者は自らの費用で除却する必要はなく、仮に行政が代執行に基づき建物を除却した場合でも、除却にかかった費用を納付する義務もありません。
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相続分の譲渡が贈与に該当する場合について
1 相続分の譲渡とは
父母の一方が亡くなり相続が開始した場合、残された配偶者や子どもたちなどの相続人の間で遺産分割協議が行われます。しかし、相続人の中には遺産は要らないので、遺産分割協議には参加したくないと考える者もいます。このような相続人が取りうる方法としては、相続放棄(民法939条・相続放棄をしたい方へ)と相続分の譲渡があります。
相続放棄とは、相続人が家庭裁判所に申し立てることによって相続を放棄する制度であり、放棄を申し立てて裁判所に受理されると、その相続人は初めから相続人とならなかったものとみなされます。一方、相続分の譲渡とは相続人の一人が、他の相続人や第三者に自らの相続分を譲渡することを言います。相続分の譲渡を定めた規定は民法上ありませんが、一般的に認められた手続です。また相続分の譲渡を前提とした規定が民法にはあります。相続分の譲渡は相続放棄と異なり、裁判所へ申し立てる必要はなく、譲渡当事者間で行うことができるので、よく利用されております。
相続分の譲渡が行われた場合、譲渡を認めたくない他の相続人は何らかの主張ができないのでしょうか。
まず、相続分の譲渡が第三者になされた場合には、譲渡人ではない他の相続人は譲渡された相続分の価額を支払った上で、自らがその相続分を譲り受けることができます(民法905条)。しかし、相続人間で相続分の譲渡が行われた場合、他の相続人は譲渡行為を阻止することはできません。
このように相続分譲渡がなされると、相続分を譲渡した相続人は、相続人ではなくなるので遺産分割協議に参加する必要がなくなり、相続分を譲り受けた相続人は、自らが取得する相続分が増えることになります。また、相続分を譲り受けたのが第三者であれば、第三者が他の相続人との遺産分割協議に加わることになります。
2 相続分譲渡が贈与に該当する場合について
相続分譲渡を受けた相続人は、被相続人が残した遺産からの取得分が増えるわけですが、他の相続人は相続分譲渡につき何らかの主張ができることがあるのでしょうか。
この点についての判例(最高裁平成30年10月19日判決・民集72巻5号900頁)があります。事案を簡略化しますと、まず父親の遺産相続の際に、二男が母親から相続分の譲渡を受けて、長女を含む他の相続人とともに遺産分割協議を成立させました。次に母親が亡くなり相続が開始した際に、父親死亡時に母親から相続分譲渡を受けた二男に対して、長女が相続分譲渡を受けた点について遺留分を侵害しているとして主張したのです。争点は、遺留分算定(遺留分侵害額の計算)にあたり、相続分譲渡が贈与として算定の基礎財産にあたるのかが問題となりました。
上記判例は、「共同相続人間においてなされた無償による相続分の譲渡は、譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産に価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるいえない場合を除き、上記譲渡をした者の相続において、民法903条1項に規定する贈与に当たる。」と認定し、相続人間の無償による譲渡が贈与にあたることを認めております。つまり、相続分譲渡を行った譲渡人が死亡し新たな相続が開始した場合、譲渡当事者ではない他の相続人は相続分を譲り受けた相続人に対して、特別受益や遺留分算定のための贈与に当たる旨主張することができることになります。
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