相続放棄と空家の管理責任について

1相続放棄者の義務

 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内であれば相続放棄をすることができます(民法915条1項・相続放棄をしたい方へ)。相続を放棄すれば初めから相続人とならなったものとみなされます(民法939条)。相続放棄が実際になされるのは、遺産に借金が多い場合、不動産などの資産があっても価値がない場合、相続争いに巻き込まれたくない場合などです。

 ただ、相続放棄をしても遺産に不動産、預金通帳や動産がある場合、「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけると同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」(民法940条1項)と規定されており、放棄した相続人には管理責任が課されております。通常であれば、第1順位の相続人である子が放棄した場合、その子が第2順位の両親や第3順位の兄弟姉妹の相続人に遺産を引き渡すまで管理責任が継続することになります。

 では、第1順位である子の他に第2順位や第3順位の相続人がいない場合に、第1順位の子が相続放棄した場合、その子は遺産について管理責任を負担し続ける必要があるのでしょうか。

 このような場合、最後の相続放棄者である子は遺産の管理責任を負い続ける必要があります。遺産の管理責任を免れるためには、相続放棄者が利害関係人として家庭裁判所へ相続財産管理人の選任の申立てる必要があります(民法952条)。もっとも、相続財産管理人の選任申立にあたっては、少なくない額の予納金を納めなければならず、この点が、相続財産管理人の選任を申し立てることを躊躇する原因となっています。

2相続放棄した遺産が空家である場合の問題

(1) 近隣住民等に対して生じる責任

  遺産のうちに空家がある場合、前述しましたように相続放棄した者が最終放棄者である場合、遺産の管理責 任が継続することになります。このような状況において空家で火事が生じ近隣の建物に被害を被らせた場合や空家の瓦が落ちて近隣の建物に被害を与えた場合などは、相続放棄者が管理責任に基づく損害賠償責任を問われる可能性があります。相続を放棄したからという理由で、責任を免れることはできないといわなければなりません。

 相続放棄者が管理責任を免れるには、前述しましたように相続財産管理人を選任して、空家を除却したり、売却するなどして処分してもらう必要があります。

(2) 行政に対して生じる責任

  平成27年に空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空家法」といいます。)が制定され、行政も増え続ける空家対策に乗り出しております。

  空家法で規定された施策のポイントは、行政において特定空家を認定し、特定空家の所有者や管理者に対し、除却、修繕などの周辺環境の保全を図るために必要な措置を助言、指導、勧告、命令することができます。

  特定空家とは放置すれば倒壊の危険がある状態や衛生上有害となるおそれのある状態など、周辺の生活環境の保全を図るため放置することが不適切である状態の空家のことをいいます(空家法2条2項)。

  所有者が行政の命令措置に従わなかった場合、行政が行政代執行法により除却などを行い、それに要した費用について所有者に対して納付命令を行います。

  では、最後の相続放棄者は、倒壊等の危険がある空家に対して、行政から助言、指導、勧告、命令を受ける対象となるのでしょうか。つまり、放棄者自らの費用で除却する必要があるのでしょうか。最後の放棄者が放棄後も管理責任を負うとされていることから問題となります。

  この点、管理責任を負う最後の放棄者についても空家法3条の適切な管理を行う努力義務を負いますが、前述した空家法14条の命令を受ける対象とはなりません。つまり、最後の相続放棄者は放棄した空家につき倒壊の危険があっても、行政の命令を受ける立場にはなく(但し、行政から助言、指導、勧告を受ける名宛人とはなります。)、最後の放棄者は自らの費用で除却する必要はなく、仮に行政が代執行に基づき建物を除却した場合でも、除却にかかった費用を納付する義務もありません。

 

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