遺産分割協議が終了した後に遺言書が出てきたときは、遺産分割協議が無効となり、遺言書の内容が優先するのでしょうか。この点につき事例を通して考えてみましょう。
事例 被相続人が亡くなった後、相続人が3名おり、相続人3名が法定相続分どおりに遺産を分割する協議を終了させた。その後、被相続人の自筆証書遺言が発見され、遺言書の内容が分割協議の内容とは異なり、その内容が相続人Aに遺産をすべて相続させるものであった場合に、相続人Aは遺産分割協議の取り消しを主張できるのでしょうか、つまり遺言書の内容が分割協議に優先するのでしょうか。 |
●遺言書と異なる遺産分割協議も可能
相続人は、遺言書がある場合でも相続人全員の同意があれば、遺言書の内容と異なる協議も可能です。これは、遺言制度が被相続人の意思を最大限尊重するとしつつも、相続人全員が合意している場合にまで遺言内容の拘束力を認めずに、協議により柔軟な遺産分割を実現しようとするものだからです。
そうすると、事例では相続人全員の同意により遺産分割協議が成立しているので遺産分割協議が無効であったり、取り消されるべきものとは言えないとも解されます。
もちろん、遺産分割協議成立後に遺言書が出てきたしても、相続人全員が分割協議を維持することが明確であれば、遺産分割協議が無効や取り消されたりすることはありません。
しかし、遺産分割協議の無効や取り消しを主張する相続人Aは、遺産分割協議前に遺言書の存在を知っていれば、遺産分割協議時と同じ意思表示をしたとは考えらえない場合もあります。特に遺言の内容が相続人の一人に全財産を相続させる場合などはそのように考えられます。
●錯誤の主張について
民法95条は以下のように規定して錯誤による意思表の取り消しを認めています。 民法95条1項 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。 |
- 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
- 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
事例のように、全財産を相続させると遺言書で記載された相続人Aは、遺言書の存在を知っていれば遺産分割協議と同じ意思表示をしなかった可能性が高いですので、錯誤による取り消しが認められると解されます。
一方で、遺言書の内容と遺産分割協議で成立した内容にあまり大きな差がないのであれば、遺言書の存在を知っていれば遺産分割協議と同じ意思表示をしなかった可能性が高いとは言えず、錯誤による取り消しが認められないと解されます。
遺産分割協議が終了した後に遺言書が出てきたときは、どちらが優先するのかは事案内容によりケースバイケースで判断されることになります。
このようなケースでお悩みの場合、一度、当事務所へ相談されることをお勧めいたします。